買取の問題の修正
ただ売れるからといって大量に投下して、「マス」の裾野から「ディスカウンター」まで落ちていくと、「オピニオン」や「マス」のトップ層にとっての魅力は半減してしまうのだ。
たとえば、当初は知る人ぞ知る人が愛用していた「プラグ」の黒いナイロンリュックは、人気に火がついてから並行輸入で大量に出回って、マス化か進み過ぎた結果、感度が高い人の間では「終わったアイテム」になっている。
また、コギャルを中心に支持された厚底ブーツも、茶髪に濃いメイクの子が、「渋谷109」の前でたむろしていた頃は、「オピニオン」のアイテムたった。
それが全国に広まり、地方都市の街角でも、ガングロに超厚底シューズが氾濫した時点から、水を引くように消えていった。
ファッションにおいては、大衆化し過ぎて、結果的にブランドやショップイメージが損なわれることを抑止するマーケティングこそが求められるのだ。
Bでは、「イノベーター」の欲求のベクトルを読みながら、「オピニオン」が「次に求めるもの」をスタッフは品揃えする。
それが共感を呼んで「マス」に浸透し、その三分の二に限りなく近づいたあたりで、追加投人を打ち切る。
これが、長年にわたって続けてきたターゲット戦略だ。
つまり、その商品の投入時期と引き上げ時期を明確化するのが。
気づきのタイムラグ”の意味するところでもある。
「売れれば売れるほどいい」のではなく「売れるべき人に適確に売れればいい」と考えているからだ。
気づきのタイムラグ”の重要性は、恐らく投入時期だけでなく、引き上げ時期が明確に設定されているところだ。
売れているのにストップをかける。
その潔さこそは、二ー世紀に入ってからの市場攻略のなかで、忘れてならないポイントのひとつと言える。
しかし、どこで歯止めをかけるのか。
これは非常に難しいポイントだ。
BではPOSデータを活用して売れ筋数量を常に把握はしている。
しかし、データだけに頼らず、バイヤーがショップの店長とコミュニケーションを重ね、「投下数量=ここまで売れたらおしまい」というラインを決めている点が特徴だ。
定量情報だけに頼らず、かと言って感覚的な定性情報に偏らない。
このあたりのバランス感覚も、Bらしさのひとつと言える。
ただ、この最適と思えた定量分析と定性分析による打ち切り時期は、企業の規模が小さいうちは、かなり有効に機能していた。
きめ細かなコミュニケーションや皮膚感覚が共有されやすかったからだ。
が、現在の規模のなかで、改めて。
気づきのタイムラグ”の終点の決め方が問われているのではないだろうか。
各ショップ、各業態、そしてBという企業全体の方針として、どこで「止め」を出すかの基準を再構築する時期を迎えている。
市場は富士山型から八ヶ岳型へそういった難しい市場環境のなかで、“気づきのタイムラグ”は、図で示すように「富士山型ではなく、頂が複数ある八ヶ岳型になってきた」とSは分析する。
「上に行くほど小さなトンガリがいくつもあって、マスにいくほどさまざまなものが混ざり合っている状態」だという。
何かにこだわって、マニアックに自分の領域を掘り下げる「オタク」が登場したのは八〇年代のこと。
当時は、アニメやフィギュアなど、興味のあるものについてのモノや情報を、プロ顔負けのレベルで集めることから注目された。
その後、若者の世代交代が進み、小さい頃から豊富な消費経験を積んだ団塊ジュニア世代が入ってくると、誰もが何かのオタクと言っても過言ではないほど、自分のこだわる領域を持つようになってきた。
中学・高校時代からさまざまな消費経験を積んで、大学生になった頃には、ある程度、自分の好きなモノやコトが決まっているのだ。
たとえば、スノボーにはまっていて、ボードとウェアにすべてのお小遣いをつぎ込んでいる男性、格闘技を見に行くのが好きで、グッズを大量に集めている女性といった具合だ。
そして、各々の分野において似たような関心がある仲間がいて、その頂点に立っているカリスマ的な存在がいる。
それは、著名なスノーボーダーだったり、格闘家だったりする。
かつてファッション好きと言えば「洋服オタク」を意味していたが、今は必ずしもそうは言えなくなった。
クラブのDJやスポーツ選手が憧れの存在で、ファッションでも影響力を持つ。
これが、Sが言うところのトンガリの数が増えている所以だ。
「団塊世代は○○派という大括りの区分ができた人たち。
わかりやすく言えば巨人派心阪神派といったところ。
対して、新人類(‐ハナコ世代)は○○族という区分で少し細分化されていた。
グループの規模は小さいけれど、族ごとにピラミッドが存在していた。
しかし、団塊ジュニア世代は○○系という区分になってくる。
ピラミッドの存在のあり方自体が変わってきた」つまり、ハナコ世代あたりまでは、“派”あるいは。
族”ごとにピラミッドが形作られたが、団塊ジュニア世代から下世代は、マーケット区分がより複雑化している。
一人の人間が、場面や領域によって複数のピラミッドに所属する。
ある領域の「イノペーター」の発信する流行が、他の領域の「マス」にも影響力を持つ。
情報の経路も、クチコミを含む複数の経路で大量に、しかも迅速に広がる。
ピラミッドの頂点から「マス」に真っ直ぐ落ちるのではなく、八ヶ岳の頂点から枝分かれして数え切れないほど多くの谷を伝って麓に落ちていくともたとえられるだろう。
トンガリの周辺にいるこだわり層を狙うまた、従来に比べると、若者の関心領域が広がってボトムアップしている点を配慮する必要がある。
かつて若者と言えば「女の子はファッションと美容、男の子はクルマが興味の対象」という時代もあった。
しかし、今の若者たちにとっては、音楽、アート、インテリアなど、関心領域は広範囲に及んでいる。
そして、前述したように、自分かこだわる領域は徹底して掘り下げるが、他の領域にも関心がないわけではない。
つまり、さはどこだわっていない部分でも、そこそこの感度は押さえている。
アニメ好きだから、写真好きだからといって、まったく洋服に構わないということは、ほとんどなくなっているのだ。
気づきのタイムラグ”で言えば、「オピニオン」の一部あたりから山は重なりを見せてくる。
あるジャンルの音楽とアートに造詣が深い人。
洋服とインテリアに同じテイストや感度を求める人。
食器や文房具などプロダクツのデザインにこだわる人などなど。
ひとつではなく複数の領域にわたって関心を持ち、それらの組み合わせバランスを重視する。
「ボリューム層の間で、既存の曲を誰かが編集したコンピレーションアルバムや、DJによって曲が混合・編集されたリミックス、異業種間まで広がったコラボレーションなどが人気なのは、市場が八ヶ岳化しているから」とSは見ている。
しかし、市場がこのように変化しても、Bが狙う層は変わらない。
「オピニオン」と「マス」の上から三分の一までという当初からの鉄則は守られている。
それも、たくさんあるトンガリの周辺にいる。
こだわりを持った○○好き”な人びとだ。
そして、彼らが店に集まってくるためには、人・商品・店、いずれかを媒介にして、店のこだわりや趣味嗜好が。
濃い”状態で発信されていることが必要だという。
B各店においても、“濃さ”を追求することが改めて問われている。
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